「千織、来週はイースターをやるわよ!」
ある日曜日の夜のこと。ルカの自室に遊びに行って並んでテレビを見ていたら、何の脈絡も無く一方的な宣言をされてしまった。
いや脈絡はあるか。テレビの向こうでは、アナウンサーがヨーロッパの祭りを紹介している。
一週間もかける盛大なお祭りらしいが、いまいちピンとこない。
「あんたが色々唐突過ぎるのはいつものことだから置いとくとして、イースターってアレか。モアイの住まう島」
南国の島を思い浮かべると、ルカが惜しいと指を鳴らした。
「にゅふふ。イースター島はね、西洋人がイースターの日に見つけたからそういう名前なのよん! ニアミス!!」
「イースターの日ねえ……」
《今年のイースターは四月十六日なんですね〜。では、さっそく準備にお邪魔してみましょう》
丸みを帯びたブラウン管テレビの向こうではアナウンサーが色とりどりに着色された卵に驚きの声を上げているが、肝心の画面に時折ノイズが走るのでよくわからない。
「つかそろそろテレビ買い換えろよ。映像が波打っててイースターエッグ全然見えねーよ。どうせあと数年で映らなくなるんだろ?」
「チューナー入れれば大丈夫って聞いたわ」
「大丈夫じゃないよ、寿命だって言ってんの。もうこいつは充分頑張ったよ。……言ってるそばから映像が白黒に変わったんだけど」
「やっぱ最近ノイズの頻度増えてるわねー……」
言いながらルカがテレビの側面を叩く。今時そうそうお目にかかれない木目調のボディに一発、二発。
「よし解決! まあ買い換えは我が家の家計簿と相談するとして、本題よ本題! 来週の日曜日はイースター! 卵デコって中身はお菓子にして、あとウサギも必要ね!」
「テンション上がったからって立ち上がって回転しないでくれない?」
「イサクなんかね、授業だかお楽しみ会だかなんだかでイースターやるって言うのよ。羨ましいわ」
ルカがおとなしくクッションに座る。
「最近の小学生はグローバルだな。もう英語の授業始まってんだっけ?」
「まだよ。でもあと何年かしたらカリキュラムに直撃する世代だわ。トビトは卒業してるだろうけど」
ルカが小さく「んふーあたし英語苦手だから小学生のうちに習うなんてゾッとするにゅーん……」と呟いた。
「まあいいんだけど、あんた来週どころか毎日部活でしょ? イースターの準備する暇あるの?」
何気なく言ったオレの言葉にルカは固まり、顔を覆ったままずるずると崩れ落ちた。