戦闘を歩く双剣使いが木製の扉を開けた。魔術師達が寝泊まりに使っていた部屋の一つだというそこは、高い位置に明り取り用の窓があるだけの簡素な空間だった。窓の外では薄明が終わり、夜明けの燃えるような金色に変わっていた。四つある寝台の一つにミーナを横たえ、毛布を掛ける。
「では、な」
「……これからどこへ行くんだ?」
なんとなくケトルは聞いてみた。他の傭兵達はさっさと広間から去り、おそらく今頃はこの遺跡を後にしている。
斧使いは肩をすくめた。
「また、依頼主を探す」
「じゃあナー」
ひらひらと振られる手が扉に消えるまで、ケトルはぼんやりと見送った。
ミーナの向いの寝台に腰を下ろす。
「テロルは?」
「あたしはこいつを引き渡しに行かないとね。そう言うあんたは?」
「おれは……」
言いかけて、ケトルは思考の鈍さを感じた。ずるずるとシーツに倒れ込む。
「……なんだか物凄く頭が重くて上手く物が考えられない……。テロル、おれの体、鉛か何かになってない? 魔法とか、魔術とかで……」
「ただの疲労じゃない? あんたあんな長い時間剣持ってたの初めてでしょ……って、ちょっと、大丈夫!?」
テロルが騒ぐ気配がするが、ケトルはもう言葉を発する気力もなかった。
身体中が痛く、疲労が眠気となって襲い来る。そういえばそもそも徹夜したのさえ初めてなのだ。抗えない睡眠欲求にケトルの意識は沈んで行く。
「……しょうがないわねー」
体に乗せられたのは毛布だろう。
意識を失う直前、ケトルはミーナが作り出した花園を思い出していた。一面に咲いていた小さな白い花、それは野イチゴの花だった。