(SAO/嬢)
・前のやつの続き
・仮想世界のリアルラックが異常に高い設定となっております
・キャラでてこないよ
・いつも狩りしてごめんなさい
仮想世界アインクラッド。
広がる世界はまさに異世界そのものだった。
電信柱など文明の利器が一切排除された広大な草原に、森に、湖に、そして城壁に囲まれた奥ゆかしい街。空は無限で、息を吸ってこれが空気だと改めて感じることはないが透き通ってるのが一目でわかる。触覚がたまに肌を撫でる柔らかな風を感じ、太陽の日差しは猛暑日のように刺すことがないもののやはり特有の暖かみを与えてくれる。空を舞うのは見慣れない鳥だけでなく飛竜らしきもののように見える。ここはまさしく正統派ファンタジーの世界だった。
初期装備しか構えていないアバターの姿は、せっかく初プレイだからと自分に似たもの……の5割増しで可愛くしてる……で、現実より確実に手入れがされている黒髪がさらさら靡くのを感じシャンプーのCM並の靡き具合だと場違いなことを思う。試しに髪を結んでもふわっと緩んでしまうそんな定番なことは出来るのか、と現実でなんとなくできなかったことをしたいと思ったが、ふと大人しく草を食べる青いイノシシの姿が視界に入った。
まあ、普通に考えてモンスターだろ。
運がいいのかなんなのか、ぼーっとしてたこっちに気付いた様子はなく黙々と食事を行う様子は中々癒されるものの、RPGといえばモンスター倒して経験値貯めてレベルアップ!が基本中の基本。ここは《はじまりの街》というゲームスタート地点のすぐ外のフィールドなので、この辺でレベルを上げておくべきだろうと考える。1番道路でレベル10まで上げるタイプな私が見逃す訳なかった。もしくはあれがチュートリアルの対象なのかもしれないし。
説明書で読んだ内容を思い出しながら、手元にある武器、初期装備の《スモールソード》を持つが……なんだろう、これ。気のせいかもしれないがなんか重い気がする。初期装備がこんなんで大丈夫なのか。この先が不安になってしょうがない。なにせ、このゲームは《ソードアート・オンライン》と、その名の通りソードスキルというものしか使えない、RPG定番の魔法要素が一切除外された所謂脳筋たち大歓喜のものなのだ。
そんな剣を使わないとやっていけないゲームで初期装備が重いってどういうことなの。
アバターの選択を間違えたかと、少し後悔しつつ、だがこの先やっていくにはレベルとお金が必要で、そのためにはモンスターを倒すのは不可欠でしかない。ぶつくさいっても始まらないし、とりあえずまだこちらに気付かない鈍感すぎる青いイノシシにちょっかいかけたらなんとかなるだろうか。接近してもいいのだが、ああいうタイプは鼻息荒くして突撃アクションかましてくるだろうからとりあえず遠距離からなんかできることはないか。そういえばレベル的にまだ2つしか選べないないスキルに《投擲》というものがあったことを思い出す。投擲、つまり物投げること。当たればそれもダメージになるのだろうか。地味だが初手には丁度いいかもしれないと、こっそり距離をとりつつ投げられるものを探す。剣はいつでもとれるようにして、足元にあった野球ボール大の石を握り、軽く構えてみる。そういえばスキルがセットしてあったら自動で敵認証してダメージを与えるはずなんだけど、と説明書の内容を思い出そうとしたその瞬間、
「え」
まだ投げるつもりはなかったそれは勝手に動いた身体によって、それはもう気持ちいいくらいにヒュンッと音をたて真っ直ぐもしゃもしゃし続けていた食欲旺盛なイノシシに向かって飛んでいった。自動で敵認証、なるほど。と、スキルの出し方はわかったがまだ心の準備ができてなかったこちらとしては血の気が引く。まずい、いきなり戦闘とかまずい。だが無情にも正確かつピンポイントで飛んでいった石の固まりは鈍い音をたてて青いイノシシにぶつかり「ピギャア!」とイノシシらしい叫び声が上がってしまう。
あ、当たった。感動とかそんなものの前に、まだよくわかってないソードスキルで戦わなければならないという展開がまずい。まずすぎて逃げ道が見当たらない。
逃げるコマンドはどこだとあたふたするが、しかし
パリン
「……は?」
可哀相な悲鳴を上げたイノシシの身体がガラスのように砕け、破片は宙で消えてゆく。次いで目の前に紫のフォントで数字が現れ、一瞬何があったのかわからなかった私だったが数字を眺めるにつれ真っ白な頭に定番の勝利のBGMがテレレテッテッテーと流れてきた。あ、これはレベルアップの曲だった。
「え、初戦闘終了?」
いくら見回してもモンスターが完全に消えている。つまり今現れた数字は経験値とお金(ここでの通貨はコルというらしい)だったのだろう。だがまさか石ころいっぱつ投げただけで倒せると思わなかった。1番道路でさえコラッタやポッポに瀕死にされることもあるという難易度なのに、石ころで一撃。スライムだって一回目の戦闘じゃあ剣で2〜3撃喰らわせないと倒せないというのに、石ころで一撃。剣すら使ってない状況に運がいいんだか悪いんだかわかんなくなり、一人寂しく草原に立ちすくむ。誰かいないのが唯一の救いかもしれなかった。
だが立ち止まっててもしょうがない。今のは偶然クリティカルでもだしたんじゃないかと自己完結し、とりあえず次に挑むとする。
暫く歩くと見つけた今度は赤いイノシシは死角なのかまたこちらに気付いていないらしい。赤か、なんかさっきのより強そうだ。次こそ剣も使おうと思いつつ、ただ油断は禁物なので再び足元の……こころなしか野球ボールよりは小さくなった石ころを拾う。先制攻撃(石ころ)で体力ギリギリにして、剣でズバーンととどめを刺す。一応簡単なイメトレをしながら再び構える。
だが、2度目は石ころがこちらに振り向いたイノシシの顔に当たりまたまた一撃KO。続く3回目4回目、更にそれ以降の挑戦でも《魔具石ころ》の威力が120%発揮され、一度も剣を使わない戦闘に、思わずこの剣売ったらいくらぐらいになるだろうと遠い目をして考える自分がいた。
本来石ころなんかで倒せるわけないイノシシさんごめんなさい
ちなみに赤いイノシシはちょっと珍しいタイプ。経験値が青より多めでレアアイテム落としたりします。その分強いけど。