イサクは同級生らと協力し、餅を焼き始めた。
「トビトは?」
「あっちだべ」
イサクの指し示す方角を見ると、ルカのもう一人の弟は別のやぐらの下で友人達と駄弁っていた。同い年くらいの少女から怒声が飛ぶ。
「ちょっと男子ー! ちゃんとしなさいよ!!」
「やべっ、クラス委員だ!」
気の強そうな少女に追い立てられ、少年達が蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
「なんだか随分とベタな光景を見たわ」
ルカでさえも表情に呆れの色を滲ませている。
「でもベタっていいわよね! ありきたりだからこその安定感! 王道! まるで実家のようだわ!」
「知らないってば」
前言撤回。
「ルカ姉、チオ姉、お餅が焼けたころにべつの班の子たちが来るからね」
イサクはテンションの上がった姉をスルーして軽く会釈をすると、友人達の輪に小走りで駆け寄って行った。すれ違い様に、子供達の声が聞こえてくる。
「伊作、おめえの姉ちゃんてどっちもおめえに似てねーな」
思わずルカと顔を見合わせた。
「ふふふふー」
イサクの弾むような声が、雑踏の中で妙に鮮明に聞こえた。
「大切な人たちだよ」