「イカれてる? あっはははははッ、そうかも! でもいいヨー。殺し合いが出来て大金も貰える仕事だから楽しむだけ!」
ケトルの胸中に怒りが沸き上がった。
「おまえ、自分が楽しければ、女の子が泣いて助けてって言ってても関係ないのかよ!」
「えー……アイツのコト?」
少年がミーナを見やる。さして興味の無さそうな仕種にケトルの怒りは増して行く。目の前の少年にも、ミーナを掴んだままの巨漢にも、それを指示したローブの男にも、男の護衛達にも。
「大体おまえらおかしいよ! 何をしようとしているかは知らないけれど、ミーナは泣きながら助けてって言ったんだぞ! あんな子供にそんなこと言わせて、おまえら何とも思わないのかよっ!?」
気勢を乗せて剣先を走らせる。
それを少年がギリギリまで引き付けて避け、すぐさま斬撃を返す。
ケトルは避けなかった。
少年の剣が左腕を薙ぐ。想像していたよりもずっと鮮烈な痛みに視界が明滅する。
流石に予想外だったのかケトルの行動に目を見開く少年の、その僅かな一瞬を狙い、右手で剣を振り払った。
鮮血が石畳に点々と落ちる。
ケトルの剣は少年の耳を赤く染めていた。
「あっはは! 耳、千切れるかと思った!」
少年のはしゃぐ声にケトルは苦虫を噛み潰す。
「なんで嬉しそうなんだよ……」
かなり無茶な体勢で避けられ、攻撃は浅くしか入らなかった。
相手の油断を利用したつもりだったが、相手の身体能力は想定を超えていた。
「目とか狙われたら危なかったヨー」
少年は笑う。
享楽以外の感情が抜け落ちた顔で。
「もっと、殺す気で来いヨー?」
「くっ……!」
ケトルは脂汗を拭う。
ローブの男が手を叩いた。
「リャオ、そろそろ遊びも終わりにしろ。そいつの死体は自分で廃棄しておけ」
それは事実上の死刑宣告だった。