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クリスマスも仕事……見渡せば案外そんな人だらけだって気付いたのは社会人になって二年目くらいだったと思う。
「……ちっす」
備府はカクンと首だけを器用に下げて会釈をしてきた。伸ばしっぱなしの黒髪を今日は珍しく結ばずに垂らしている。その野暮ったい姿がかえって愛おしくて、僕は仕事の疲れが霞んでいくのを感じた。
「こんな時間に備府が外にいるなんて珍しい」
「バイトの帰り。時間通りに終わったんだけど、バイトの奴と喋ってたら遅くなった」
「そっかぁ。帰り道で会うなんて偶然だね」
「……そっすね」
備府の返事は妙に素っ気ない。けれどそれは不機嫌なわけではないのはよく知っている。自宅から一歩外に出れば、常に誰かが半笑いで自分を見ているように思えて腰の落ち付け所が分からないらしい。外で口数が減るのが備府だ。
はじめこそ様子がおかしいと心配したものだったけれど、付き合いもこう長くなると「部屋の中の備府」「外の備府」の両方を熟知してしまうもので。備府は一度で二度おいしい。しかもギャップのある備府の姿は恐らく僕しか知らない。その優越感や独占欲のようなものは、ジワジワと僕の心を満たしていく。
……もしかして、僕の帰りを待っていてくれたのだろうか。
備府の赤くなった鼻先を見つめながら自惚れた妄想をしていた所に、何かが飛んできた。
「うわっ!? とっ、と……」
慌ててそれを受け止める。その温かさに驚き見ると、缶のコーンスープだった。
「やる」
備府がぶっきらぼうに言う。その手には同じものが握られていた。差し入れの飲料にコーンスープという少し斜め上なチョイスが備府らしい。そして、夕食をとっていなかった僕には一番嬉しいチョイス。これは一体、どこまで計算しての事なのだろう……。
付き合いが長くなっても、備府のこういうちょっとした箇所が読めなくて僕は楽しい。まるで期待を持たされて舞い上がる「友達以上恋人未満」の片割れような、むず痒く萌え出る気持ちを未だに味わえる事が嬉しいのだ。
「わ、ありがとー!……あー、あったかい…」
投げ渡された缶は、冷え切った指先には温かいものの、買ってから少し時間が経過している様子が伺えた。やっぱり僕を待っててくれていたんだね…なんて、自惚れが止まらなくなってしまいそうだ。
缶で両手を温めていると、備府はしたり顔でニヤリと笑った。
「お買い上げ一万円でございます」
「ええ〜っ!ぼったくりじゃん、備府ひどーい!」
「プレミアっすよ、矢追さん」
「う〜ん……」
備府いわくプレミアもののコーンスープのプルタブを引く。カシュっと思った以上の良い音がした。
「プレミアはもう少し有名になってからにしてくださいよぉ備府先生。最近奇をてらったロリエロ漫画ばかり描いてらっしゃる様子ですけど次回作はどうするんですか?」
からかってくる備府に負けじと、僕も悪戯っぽい言葉で返す。
「ファッキュー!ブチ殺すぞごみゅめら」
「ははは、言えてない言えてない」
「あーーあーーうっせえ!もういいそれ返せ!お前に飲ますスープはねえ!」
「しーましぇ〜ん。……じゃ、いただきまぁす」
備府の隣へ腰掛け、へらへらと談笑しながら開栓したスープを味わう。
コーンの甘い香りと温かさに一息つくと、カチカチと小さな音がせわしなく聞こえてくる事に気がついた。
音のする方へ目を落とせば、備府が未だに缶を開けきれずプルタブと格闘していた。何気ないように僕と会話をしながら、その指はプルタブを立ち上げようと必死だったのだ。
「あれぇ備府さん?缶、開けきれないのォ?」
「うっせ!てめー深爪なめんなよ!」
カチカチ、カチ、カチ……
プルタブを逃がす音ばかりが響く。ニヤニヤとその様子を眺めていると備府は更に渋い顔をした。こちらをジトリと睨みながら、わざとおかしな顔で威嚇をしてくる。
缶を握ったまま、いつまでももたついている備府の手元を眺める。
野暮ったい風貌の主とは裏腹に、スラリと長細い綺麗な形の指。僕がこの指を好きなのは、ただ単に見た目が良いからだけではない。彼の理解されにくい繊細さがそこにヒッソリと顔を出しているようで、つい見とれてしまうのだ。綺麗な指がモタモタとプルタブを摘めずにいる様子など愛おしくてたまらない。
「指が冷えてるから?感覚がなくて開けにくいのかな」
「いーや、深爪だね。だって俺、昔は普通に開けれたし。バイトして爪を切るようになってから全然開かなくなりやがったんだよコレ。あああ!腹立つ!」
癇癪を起こしたように握り締めた缶をブンブンと振り出した備府を見かねて、僕が代わって缶を開けて手渡す事にした。
「……ども…っす」
バツが悪そうに、備府はそれを三口程で飲み干した。最後に缶の底をトントンとつついてコーンを出している。
「……備府、僕の帰りを待ってくれてたんでしょ?」
「いやいや。通りがかっただけですしおすし」
思った通りの返事に僕は思わず含み笑いをする。シラを切る備府の鼻先はやっぱり赤い。伸ばしっぱなしの髪とマフラーに隠れた耳のふちも、よくよく見れば赤い。
「指……こんなに冷たくなってる」
指をキュウと握り締めると、備府は慌てて周りを気にした。どうせこんな時間の公園に人などいない。見られて困るとも思っていない。僕は構わず備府の指に熱を分けた。
細長い指は、近くで見ると随分と荒れていた。すっかり働き者の手になった備府の顔を見る。面構えも学生の頃とは少し違っていて、感慨深いような、焦りを覚えるような、不思議な気持ちにさせられる。
「……長居してたら風邪ひいちゃうね。はやく帰ろ」
備府の指先を握ったまま、僕は自分のコートのポケットへ手を差し入れた。
「ちょちょ、おい、矢追」
「なに?」
「手。放せよバカ」
「寒いから不可でーす」
「うっわ出た『寒いから』!『冬のせい』!このひとりJ-POP野郎」
「……冬のせいっていうか、『備府のせい』?」
「俺すか。いやいやないっすわ……」
だらだらと歩き出す。ポケットの中で、備府の指が観念したように僕の指に絡みついていた。
ぐおうふ!
元ネタ:ツインテール(ウルトラ怪獣)
今日はツインテールの日ですね
後で気づいたんですが夫婦の日でもあるそうです。そういう意味では普通のツインテ絵より凡庸性のある絵だったので助かったなと思いました。…どこがだよ!
今日も今日とて、授業を終えたその足でスーパーへと向かう。私はそこで、夕方から閉店までレジ打ちのアルバイトをしている。
単身者用のマンションや社宅が多いこの一帯だけれど、その分スーパーはそこらかしこにある。夕方の戦場をやり過ごした後は、そこそこのんびりとしていられるのだ。二一時にもなれば、レジ回りの商品やサッカー台を整理しながら、ぱらぱらとやってくる商品を馴れた手つきで流しいていくだけ。
このバイトをやっていると、よく来るお客さんの顔も覚えたりする。今日はそのなかでも意外な組み合わせの二人が一緒にやってきたので、並んだ横顔をヘェと眺め、店内へ見送った。
どちらも男で、十中八九、一人暮らしの大学生だ。二人とも似た背格好で眼鏡をしているので、メガネーズとでも名付けようか。……そう思うと意外な組み合わせでも何でもないのだけれど、そういう事ではない。メガネーズの片割れに「一緒に買い出しに来るような知り合いがいたのか」と驚いた、というのが正確な所だった。
メガネーズのうちの一人は、イケメンと言うわけではないけれど人懐こそうな顔をした、感じの良いお客さんだ。レジの際に明るく柔らかな声で「お願いしまーす」、会計後には「どうもー」と言ってくるのですぐに覚えた。暇な時には二・三言の世間話を交す事もあるし、「がんばってね」と言ってくれる。それだけの事なのだけれど、この人が私のレジに並ぶかどうかでひそかに明日の運勢を占っていたりする。私は心の中で彼をメガネくんと呼んでいる。
もう片方は、ちょっと不審者じみたメガネだ。バサバサの髪とメガネで顔が隠れていて、背を丸めたまま異様に早歩きで店内を回る。その様子を初めて見た時は、バイト仲間と顔を見合わせて「ヤバい、あれヤバイ」とアイコンタクトを交したほどだ。
加えて、まともな会話ができない。以前「キャンペーンのシールはお集めですか?」と尋ねた時など、「あっ、あっ、あっ……」と不気味な声を発してきたので、恐怖のあまりお金を取り落としてしまった。
同じ学校の知り合いで、マンションが近いのだろうか。チラチラと体を前後させ二人を見つけようとするが、商品棚が立ちふさがっている。
「だーかーらー!!その話はもうするなって言っただろーが!馬鹿!バーカ!このカスが!!」
突然店内に響いた大声にビクリと肩が跳ねあがった。やだなに、喧嘩……?恐々と様子を窺うと、どうやらメガネーズの気持ち悪い方の声らしかった。感じが良い方のメガネくんの呑気な笑い声がそれに続き、内容は聞き取れないもののどうやら喧嘩ではないようだと分かった。
ああ、びっくりした。気持ち悪い方のメガネはあんな声だったのか。というか、普段そんなに大きな声で話したりするんですねアナタ。ウワー余計に怖いなぁ、声量の調節が出来ない人って、どこかおかしい人が多いんだよなぁ。
「あのぉ、すみませーん。今日の広告に載ってた10kgのお米、まだありますか?」
メガネくんがひょこりとやってきた。
「あっ、それでしたらお米のコーナーじゃなくて、こちらに積んでありますよー」
案内しようとレジを出ると商品棚の奥から猫背がジトリと覗いていて、思わず声をあげそうになった。
「ほらな言ったろ。俺はレジ裏っつっただろ、最初から。10kgなんて重いモノ、客に遠くから持って来させる筈ねーんだよ。ヒヒッ」
気持ち悪い方のメガネは、いつの間にかメガネくんの背後にやってきてボソボソと呟いている。ヒイイ、やだやだ怖い怖い無理無理……!
「残ってて良かったね、備府」
メガネくんはいつもと変わらない様子でニコニコしている。
「どうせ元々余るように仕入れてあるんだよ。安く仕入れたやつを明日には定価で売りやがるんだぜ……フヒッ」
コッチは喋るほどに気持ち悪いし嫌な奴だな。
「じゃあ僕は先にレジに行っとくから、備府はお米持って来てねー」
「はあぁ!?ちょ、矢追おまっ、まじふざけんな!!!」
「あ、これ先にレジお願いしますー」
至近距離で突然特大ボリュームで喋られても、メガネくんは一切動じていない。私なんてあまりの音量の振り幅に思わず顔をしかめてしまったというのに。
「お知り合いなんですか」
やおいさんって言うんだ。そんな事を思いながら私はメガネくんに話しかけた。
「部屋が隣同士で、お互いよく行き来してるんですよ。家でご飯もしょっちゅう一緒に食べてるし、いっそ共同でお米を買って置いとこうかーって話になって。ほら、お米ってチマチマ買うより大きいのを買った方が割安でしょ?ちょうど特売もあってたから、買いに来たんです」
「わあ、有り難うございます」
そ、そんなに仲が良いんだ……。いよいよ意外すぎる、この組み合わせ……。
「おい、持ってきてやったぞ」
重い足どりで片割れがやってきた。男の癖に10kgくらいで大げさな、と思ったけれど、いかにも非力そうな出で立ちを見ていると……うん。まあ、頑張れとしか。
「……」
「えぇ?お箸なら家にあるよ」
「ちがう、…………」
「はは、貰えるかなぁ」
片割れのメガネが、やおいくんにボソボソと何かを耳打ちしている。何かを、というか、完全に割り箸を貰おうとしてるんだけれど。アナタそれくらい自分で言いなさいよと。
「すみません、割り箸を四膳貰えませんか?」
結局やおいくんが尋ねてきた。片割れはその後ろで素知らぬふりをしている。ああ、基本的に惣菜を買ったお客さんにしか渡さないように言われているんだけれどなあ。
「後ろの人が、どうしても割り箸で鉄砲を作りたいって」
「わー!!!わー!!!」
少し意地悪な顔でやおいくんが笑って、片割れが本日三度目の大声をあげた。
「五連射できるやつを作るんだって言ってます」
「あっあっ、ちっ、違っ、その、嘘ですから!!!いりません!!箸!!いりません!!」
引くくらい顔を真っ赤にして、脱兎のように駆けだそうとする片割れの袖をやおいくんが捕まえた。
「備府さ〜ん、お米運搬大臣でしょ〜。じゃんけんで決まったでしょ〜」
「だああ!クソ!」
ガサリと米の入った袋を抱えて去ろうとするも、スムーズに持ち上げきれずレジの端でグズグズとしていた。結局サッカー台でふてくされながら支払いを待っているのだけれど、10kgの米とはそんなに重いものだったろうか。
「あの……これ。ほんとは惣菜を買っていないお客さんには渡しちゃいけないんですけど…、」
レジ袋に割り箸を四膳しのばせると、やおいくんは真ん丸な目をキューっと細め、小声で「ありがとう」と言った。
「素材が調達できた事、彼にはもうちょっと後で教えてあげることにするよ」
居心地悪そうにソワソワと張り紙などを眺めている片割れクン。その背中を眺めてはうふふと嬉しそうに含み笑いをしているやおいくん。見ているだけで、なんだかこちらまでにやけてしまいそうだった。
後からやってきたお客さんの商品を流しているうちに、メガネーズは店を出てしまった。
次はいつ来るだろうか、と名残惜しく思っていた所に本日四度目の大声が聞こえた。
ガラスの向こうにメガネーズの後ろ姿が見える。半分こに持たれたお米の袋が、二人の間でぶらぶらと揺れていた。やおいくんが先程の調子でゴキゲンに荷物を振り回して、片割れクンに怒られたのだろう。
はたして五連射は成功するだろうか。彼らが割り箸でチマチマと工作している姿を想像して、私は今度こそふふっと笑ってしまった。
性 別 | 男性 |
年 齢 | 73 |
誕生日 | 8月18日 |
地 域 | 福岡県 |
系 統 | ギャル系 |
職 業 | 小学生 |
血液型 | B型 |